①【川の音
奥州街道を下る七十郎は、偶然、同じく街道を下る渡辺七兵衛と万右衛門を見かける。お得意の話術で懐柔し、白石川の河原に二人を連れ出し、くだんの暗殺の件で問い詰める。

②【茱萸の実
甲斐の長男帯刀が、宇乃をつれて砦山へ散策に出かける。甲斐に似ている帯刀を見て、甲斐を思い、宇乃は心ここにあらずの体。帯刀は松山の娘との縁談話を宇乃にうちあける。帰り道で実もたわわな茱萸の枝を帯刀に折ってもらう。

③【忍緒
伊東新左衛門が船岡の隠居所へ、慶月院(甲斐の母)を訪ね、甲斐の真意を聞き出そうとするが慶月院も知らないという。船岡の館に七十郎が来ており、新左衛門は自分の寿命があと僅かであると告白する。そして両後見(伊達兵部、田村右京)から取るつもりの三か条の誓紙の控えを七十郎に預ける。

④【鏡の中の顔
甲斐は、いつも監視されていることを憂鬱に思う。誰にも、どんな場合にも心をゆるせない、どの女にも情を移すことができないと。初めておくみと寝屋を共にした夜の明けがた、秘密裡に茂庭周防が甲斐を訪ねてくる。手紙に書いた、一連の出来事は伊豆守信綱による伊達藩取り潰しの陰謀だ、との見解について確認のために。

⑤【秋ぐもり
おみやが宿下がりで柿崎道場の兄と新八をたずねる。兄に、手先になるのはこれきりで縁を切ると伝え、新八にも別れを切り出そうとする。黒田玄四郎との出会いがおみやの生きざまを変えたと。新八は自分が六郎兵衛に利用され、檻に閉じ込められているような境涯を声高に嘆く。そこへ六郎兵衛が現れる。

⑥【隻手砕甲
先に石川兵庫介と道場を出て行った藤沢に、待ち伏せされた尾田内記が、聞いてきた話を柿崎道場に残った3人に伝える。別の道場を開いた石川に合流するよう誘われたと。そこでは「やわら」という新武術をやる。六郎兵衛と新八がもめている所へ、兵庫介が現れ、一瞬の早業で六郎兵衛を倒す。野中又五郎ほか3人は、新八もつれて道場を出てゆく。

【竹そよぐ】
甲斐は綱宗から月見の宴に招かれ、品川の下屋敷におもむく。綱宗の気分落はち着いている様子で、最近は詩文勉強もしている。宴の席、望岳帝から下がるとき、甲斐は何者かに襲われる。それは甲斐豹変の噂を頭から信じた国許の若侍だった。

【琴の空音】
伊東新左衛門が危篤との知らせで、甲斐はかけつける。いまわの際に、新左衛門は甲斐から「一ノ関を除く」との言質をとろうとするが、甲斐は言葉にならぬ言葉で語りかけようとする(空音) 一ノ関は新左衛門に渡した「三カ条の誓紙」をやっきになって取り戻そうとする。

【早い霜】
新八が風呂屋の二階で女と戯れていると、町方の見廻りが入る。近くで辻斬りがあり、逃げた浪人風のものと新八が年恰好が似ていると疑われる。脱走者だという自覚のある新八はすきを見て逃げ、追いつめられて偶然にも甲斐の隠宅に逃げ込んだ。

【ながれの中
おくみは甲斐の子を宿しており、体調を崩している。甲斐はいよいよ亀千代に置毒が実行されそうだという予感から、鬼役の丹三郎を呼び、一夜隣に寝かし、人は弱音を吐いてもよいのだ、できれば逃げろとさとす。そこに新八の逃げ込んだことが分かる。

【伏せ網笠】
おみやは黒田玄四郎を不忍の茶屋に呼び出し、自分の来し方を洗いざらい告白するが、玄四郎にはおみやの気持ちは通じない。逆に伊達藩分割の証書取り交わしの事実を聞き、その証書を手に入れてくれと頼んできた。裏切られた思いのおみやはやけになる。

【日照り雪】
石巻にむかう七十郎を里見十左衛門が追いかける。一ノ関と刺し違えて死ぬ覚悟の十左は、自分で書いた「兵部弾劾」の書を七十郎に預ける。久しぶりに生家に戻った七十郎は、年老いた父から「無謀なことをして、親兄弟に災禍を及ぼしてはならぬ」とくぎをさされる。

【放鯉】
江戸から仙台に着いた甲斐は、子供のころよく遊んだ広瀬川で釣りをしていた。。そこへ宇乃が現れる。鯉を吊り上げたが、放してしまう甲斐から、九歳のときに川の主とも言われた大きな鯉に川へ引き込まれ溺れた話をする。宇乃には人間よりも鹿や魚に心寄せる甲斐が、孤独な寂しい人に感じられた。

【みちのおく】
涌谷と寺池の地境争いの内検分のために、甲斐は涌谷城を訪ねる。途中、湯ノ原温泉で泊るが、そこで吉岡一玄という芸者の、おもむきある二弦琴と唄に甲斐は聞き入る。一玄はもとは絵師だったが、眼が見なくなり、今では空想で、人には理解されない絵を描き続けているという。同じく他人に理解されないものをもつ、甲斐自身の孤独が深まる。

【風流無韻】
上野広小路で偶然おみやと新八が出会う。池之端の茶屋で黒田玄四郎と会うことになっていたおみやは、新八に隣の部屋でやりとりを聞いてくれと言う。黒田に酒井邸から盗み出した、例の証書を手渡し、兄と同じように自分を利用したと、黒田をなじり、別れを告げる。そんなおみやを新八は憐れみ、供に生きていく決心をする。

【いちじく】
甲斐が湯島の隠宅でおくみと、誕生を過ぎたばかりの娘かよ、とくつろいでいるところへ、中黒達弥(黒田玄四郎)が証書を持ってくる。証書はおくみの兄雁屋信助に預ける。その夜、亀千代の守の鳥羽から使いが来て、置毒のあったことを知る。まだ息のある丹三郎を見舞おうとするが、その前に宇田川橋の一ノ関を訪ね、その息子東市正の安否にかかわると脅して、「置毒」の事実を隠蔽する。甲斐が丹三郎のお小屋に着いた時には、すでにこと切れており、遺体の丹三郎をねぎらう。