第1章
【森番小屋にて】
藩の財政を潤す杉や檜の山を管理している森番たち、その小屋で小屋頭の平作は材木奉行の信田を相手に城代家老たちとその子弟の噂話をする
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阿部小三郎は、徒士の組頭である父小左衛門と共に釣りに出かけるが、近道なのでいつも通る小さな橋が取り壊されているのを知る。明らかな嫌がらせだが、父は取り壊しの張本人小者たちに卑屈な態度をとる。その事が幼い小三郎の心にその後の人生を左右する消し難い屈辱感を残す。
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取り壊された橋を見た時から八歳の小三郎に何か変化が起き、阿部家の蔵書、特に「拾礫紀聞」を熱心に読み始める。そしてある決意をし、めみえ格以上の子弟が通う藩校の教師、谷宗岳を訪ねる。
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小三郎は谷宗岳のもとで学ぶことが許される。そのことを知った父は、尚功館へ入りたいという希望について、かつて父も身分を超えてそこで学んだという経験を語る、そして身分の差は動かしがたいものと反対する。
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一方の藩校、藤明塾で学んでいる小三郎は、講義でも武芸でも上を上を目指し、はた目にも何か焦っているようにみえる。そのことで武芸では井戸勘助から、勉学では小出方正から注意され、焦らずゆくべきことを理解する。
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阿部の家の裏にすむ組下武高家の五歳のななえが、八歳の小三郎のそばに頻繁にやってくる。小三郎は幼馴染の武高伊之助とはもう遊ばず、谷のもとで必死に勉強する。十歳で試験に合格し尚功館に入学するが、父の云っていた試練がやってくる。
第2章
【森番小屋にて】
小屋頭の平作が材木奉行の信田十兵衛と共に山の木を見て回る。信田は十歳の滝沢荒雄の武芸の達者ぶりを見たと平作に告げる。
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藩主昌親病死により、昌治が跡目を継いだ。尚功館の小三郎は異例の進級をしているが、まだ谷宗岳のもとで講義を受けている。小三郎12歳の3月2日の夜、勉強をおえての帰宅途中、誰かが5、6人の侍に斬られるところに出くわす。
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今見たことを誰にも話してはならないと脅され帰宅した小三郎だが、組屋敷全体が明かりもつけずひっそりとしている。家には組下の家のななえ姉妹三人が身を寄せていた。家の外でまたも人が斬られた。
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昨夜の騒ぎは何事もなかったかのようにあらゆる痕跡が消されてしまった。小三郎は谷宗岳の安否と何があったかを知るため谷の家を訪れる。谷は事件については黙しているが、小三郎の今後について助言する。
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12歳の小三郎に、宗岳は尚功館では十分に学んだから、これからは藩士としての将来に備えるべく、歴代の事績、政治の功罪や災厄などを知るべきだと今後の進路を助言する。小三郎のようすは変わり影の薄い存在になるが、人知れず精神的にも肉体的にも自分を肥やし続け、小三郎は15歳になる。
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時間はもどり、あの事件の日から四五日あとのこと、裏の武高家の主人の葬式が出た。長男が成年に達していないので扶持がけずられ、長男とななえ以外の子らはそれぞれ養子に出された。年があけて15歳になった小三郎は道場に残り初級の稽古を受け持つ、そしてある日滝沢荒雄がたずねてくる。
第3章
【仁山村にて】
領内随一の豪農、米村青淵の隠居所で、青淵と郡奉行の櫨幾右衛門が、御小姓に挙げられた阿部小三郎に、城代家老の息子で、学問にも武芸にも抜きん出た才能をもつ滝沢荒雄が試合を挑んだ噂話をする。
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藩主昌治の領内巡視に供をする側小姓の小三郎、捨て野と呼ばれる荒地に案内し、林をぬけ井関川の川端で休息をとり、若き藩主の話相手となる。
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巡視の途中、藩主の希望で森番小屋に立ちより、小屋頭の平作に会う。そして梅雨に入った或る日、下城する小三郎は徒歩組の少年たち十人に、なまいきだと糾弾される。
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存分にやってくれと草の上に正座した小三郎にむかって、武高又三郎が憎しみを込めて木剣を振り上げたとき、井戸勘助が割って入り両者に説教する。
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同僚と思っていた徒歩組の仲間からもやられた小三郎が谷宗岳に相談に行く。滝沢荒雄との試合のことについて、相手が約束を破って勝負に出たなら応じて受けるほうが自然だと谷から以外な助言を受ける。
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藩主昌治は何かを知ったらしく落着かない様子で米村青淵の隠居所を訪れる。青淵も、城代家老の滝沢も山根蔵人も、誰もなにも明かしてくれず、父と同じように木偶であれというのかと昌治はいらだつ。
第4章
【山根邸にて】
父の蔵人が娘のつるに「婿を決めた」と告げる。小三郎が野詰めにされそうになった時、通りかかった井戸勘助に知らせて難を逃れさせたのがつるだということを父は知って居た。勝ち気な娘は徒士の子の婿入りに難色を示す。
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城代家老が剃刀親となって元服した小三郎は名を主水正と改め、同時に郡奉行付きの与力にあげられる。彼は担当する三つの郡を丹念に見廻るが、その途中、農家へ養子に云った武高伊之助と偶然出会う。山根蔵人から迎えがあり、婿養子の話を持出される。
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主水正は藤明塾から帰る小出方正を待って山根からの婿養子について相談をする。小出からは確たる助言はない。人にはいろいろな生き方があるが、物事を避けてばかりもいられぬと言う。彼の控えめな落着きに主水正は好感を覚える。
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主水正は父から呼ばれ、山根への婿入りを承知するよう促される。それは父の虚栄心からだと主水正には思われる。そして彼の収入をあてにする父母や弟のあさましさを感じとり、自分の本当の父母は他にいると幼いころから思っていたことが腑に落ちる。
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谷宗岳に相談に行くと、女を侍らせ酒を飲む宗岳の様変わりを眼にする。山根の婿入り話を相談すると、現在宗岳が住む屋敷が絶家した三浦のものだから、その三浦の家名を継ぎ、山根の娘を嫁にするという解決法を指南してくれる。
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話の途中、半鐘の音が聞え火事の発生したことを知る。火元が桶屋町とのことで二十年まえの大火事と似ているらしい。主水正は「拾礫紀聞」でその大火を知っていたので、すぐさま役所に戻り、焼け出される人々の救済にあたる準備を方々に手配し始める。
